有線イヤホンの沼

私は、2005年頃に初めて SHURE E3C という BAドライバを搭載したイヤホンに出会いました。それまで使っていた数千円の安物のイヤホンと比べると音の解像度の違いに愕然とした記憶があります。今まで聴こえてなかった音が聴こえてきたのです。お店に吊ってある安物のイヤホンはダイナミックドライバが搭載されています。小さなスピーカーがイヤホンの中に入っているとイメージしてもらえばいいです。その音は「高音が曇り低音がボコボコと鳴る」というのが私のイメージです。BAドライバのイヤホンだと「高音が煌びやかに鳴り、低音がパンパンと鳴り、そして今まで聴こえなていなかった音が聴こえる」ようになります。ずっと安物のイヤホンしか聴いたことがない方は、試聴が可能なお店でBAドライバが搭載されているイヤホンを一度聴いてみてください。二度と安物イヤホンに戻ることができなくなること請け合いです。

さて、この SHURE E3C は当時1万8千円から9千円ほどでした。今と違ってケーブルはイヤホンに直付けです。断線すると保証期間内ならばメーカーが無償で交換してくれました。今はケーブルが着脱式のものが主流で、断線しても交換できるようになっているものがほとんどです。この E3C を皮切りに、同じメーカーの上位機種である SE425 や SE535 を楽しみました。

その後、巷の高級イヤホンは多ドライバへ進化していきます。BAドライバを複数搭載するようになったのです。そもそBAドライバは迫力ある低音を鳴らすことが苦手です。先の E3C の低音はパンパンと軽い音が鳴っているだけで脳内で補正をかけないといけないレベルでした。そこで低音担当のBAドライバを載せて2ドライバにしたり、低音のBAを2つにして強化するイヤホンが出てきました。その後、BAとダイナミックドライバをハイブリッドにして低音はダイナミックドライバで鳴らし、高音、中音はBAドライバで鳴らすというように多ドライバ化が加速していきました。ハイブリッドのひとつの金字塔として AKG N5005 というイヤホンがあります。


このイヤホンは、高音から低音までバランス良く素直な鳴らし方をしてくれるイヤホンで、既に手に入れることはできませんが、今も他の高級イヤホンと遜色のない素晴らしい音を鳴らしてくれるイヤホンです。

ダイナミックドライバ、BAドライバの多ドライバイヤホンが今も主流ですが、さらに ESTドライバという超高音域を担当する静電型というドライバを搭載するイヤホンが出てきました。Kinera Imprerial Nanna というイヤホン。これは EST + BA + ダイナミックのハイブリッドドライバのイヤホンです。

中国のメーカーでして、巷では、このような中国製イヤホンは「中華イヤホン」と呼ばれています。SHUREやAKGは誰もが知るブランドですが、ポータブルAVの世界では中国製の製品が台頭してきて進化を加速させています。

ESTとほぼ同時に出てきた別のドライバが骨伝導ドライバです。イヤホン筐体自体を振動させて音を補完してくれるのです。中華イヤホンの Unique Melody Mest MKII は、EST + BA + ダイナミック + 骨伝導という多ドライバ構成のイヤホンです。このイヤホンで聴く音楽が別格でして頭の中を音が巡り廻る感覚です。

ここまでくると、多ドライバ化の究極です。とともにお値段もそれなりになってきます。これ以上、どうするんだよという世界に突入です。

多ドライバ化すると各ドライバが鳴らしている周波数帯域の重なっている部分をうまく繋がないと不自然な聴こえ方になります。各メーカーともそこに苦心しているようです。多ドライバなのに価格が安いイヤホンは、不自然な聴こえ方になっているものが多い印象をうけます。

さて、先日、私は SENNHEISER IE 900 というイヤホンを手に入れました。これは、もう至高の音を聴かせてくれるイヤホンです。どれだけのドライバを載せたイヤホンなのか?どんな新しい技術が投入されているのか?

なんと、このイヤホンは、ダイナミックドライバ1つだけなのです。驚き桃の木山椒の木です。店に吊ってある数千円のイヤホンと同じダイナミックドライバ1つです。ダイナミックドライバと言えば、モコモコの曇った高音、奥まった中音、ボコボコ、ドンドンと鳴る低音のイヤホンだったはずです。「1周回ってなんとやら」とはこのことです。BAドライバが、、、ESTドライバが、、、骨伝導ドライバが、、、とやってきた進化は一体何だったのか?

IE 900 の音を聴いていると、高中低全ての帯域が滑らかに繋がっているのがわかります。多ドライバのイヤホンと聴き比べると違いがハッキリとわかるのです。多ドライバのイヤホンは、あちこちから音が飛んできて頭の中(耳の中?)でバランスがとれているという感じなのです。IE 900 は既に完成した音が飛んでくるという感じです。ボヤケているわけではありません。解像度高くバランスが取れた音が完成品として届くという感じです。全く作為がない。であるからこそ音源の瑕疵が目立ってしまうという欠点も持ち合わせています。SENNHEISER の技術力恐るべしです。SENNHEISER の技術者は多ドライバ化を突き進む他社を嘲笑っているでしょう。「皆、アホらしいことしてんなぁ。。。音はこうやって鳴らすんやで」と。

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